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安西水丸さんが愛した鳥取への旅②ー日本一危険な国宝 [アート]

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エッセイ「鳥取が好き。」で水丸さんは投げ入れ堂は素晴らしいが、登らずに下の遥拝所から見たと書いていました。それでも素晴らしかったと。

「日本一危険な国宝」とキャッチコピーがそこら中で目に付く。
調べてみたら遭難したり滑落事故で亡くなった人もいるので服装、特に靴のチェックは厳しいと。入山記録もしなければいけないとあった。
もうハナから登る気はさらさらなく、水丸さんのように遥拝所から見るつもりでいました。

「投げ入れ堂」は、三徳山三佛寺の奥之院。
とりあえず、本堂に行って様子だけでも見てこようと、山門を目指す。

三佛寺の受付の人に恐る恐る「投げ入れ堂に登るのは大変ですよね。私なんかとても登れやしないですよね。」と聞くと、「誰でも登れますよ。大丈夫です。少し大変だけど、大変な思いをしたあとに見る投げ入れ堂は本当に美しいです。是非登ってください。最近で一番高齢の方は90代の方でした。」と。登山靴なんか当然の事スニーカーさえ履いていなかったのだから「でも靴が」と食い下がると「草鞋が一番。しかも靴下なんか履かずに素足に草鞋だとこの山は歩き易いです。」と。何だか登れそうな気がしてつい入山手続きをしてしまった。

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三佛寺の入り口から長い石段をあがり、途中本堂にお参りして登山事務所にて最後の服装と靴のチェック。素足に草鞋という拵えをする。
いざ登り始めたらもう何も考えられない。とにかく上へ上へとあがるしかない。あとで地図を確かめると大小合わせてお堂は最後の投げ入れ堂を含めて9つ。
後を追う人戻ってくる人。ラッシュというわけではないけれどそこそこの人だったので写真を撮ったりするのは憚られるなと思ったのは始めだけ。そのうち人々を気遣うといより自分の体力に余裕が無くなり道順すらあまり記憶に無い。
だいたい木の根や幹を掴んでよじ上っていく様相。ついには3、4メートルの岩を鎖に捕まって登った
り。

そういえばこの鎖のところまで来たら7割と受付で言われた事を思い出し、やっとの思いで登りきると重要文化財の「文殊堂」。これだって岩の上に建てられていて断崖絶壁にせり出すように建っている。手すりも何も無い縁側を回るのが修行だそうで、へっぴり腰で回ってみた。

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「文殊堂」からの絶景。
それはそれは美しく、ここで終わりでもいいのになぁ。
いやいやここまで来たのだから「投げ入れ堂」に行かなくては。
「文殊堂」は2つ目のお堂。あと7つ。

次はやはり重要文化財の「地蔵堂」
もう余裕は無いのでここはお堂にあがって回るは省略。
次の鐘楼だけは鐘をついてあとは省略でただひたすら歩く。(このあとはあまりきついのぼりは無い)
それでも力の無くなっている足は気を抜くとちょっとした事ですべる。気を抜かないようにいくつかのお堂を通り「不動堂」の裏を通る。ここは胎内潜りの様相。

そして岩場を滑らないように歩いて角を曲がると、そこには「投げ入れ堂」があった。登り始めて1時間半くらい建ったころだったろうか。
一瞬これは本当に「投げ入れ堂」?と思う。写真では何度も見ているのに、こんなにあっけなくあるものなのだろうか。でもこれは「投げ入れ堂」とわかった瞬間「あった!」と大きな声で叫んでしまった。
私の前には何人もの人がここを目指していたけど、叫び声は一度も聞いていない。なんでみんな冷静でいられたんだろう。思わず感動を言葉にするってことはないのだろうか。

「投げ入れ堂」静かにそこに佇んでいた、凛として。
神々しいというのは(仏様だけど)こういうことをいうのだろうか。
形の美しさがあるからなのかそうでなくてもなのか、圧倒的な何かがあった。

2016年の鳥取中部地震のとき、修験道は崩れてしまい今回の道は新たに作られた道なのだそうだが、「投げ入れ堂」はびくともしなかったのだそう。
ここまで登るだけでも大変なのに、どうやってここにこのお堂が建てられたのだろうか。なんていうことは後から思う事だった。

お堂の中に入る事はできない。ここまでしか行く事もできない。(一枚目の写真を撮った場所)

しばらくそこを離れることができなかった。

確かに「大変な思いの後の投げ入れ堂」は本当に感動だった。
この私が登れたんだから「誰にでも登れる」のだろうが、遭難や滑落で命を落とした人もいるのだから厳しい山でもあった。ここは役行者の修験道。よくこんな半端な気持で行って登れたものだと今では思う。

あの日は最高の天気だった。よく考えたら、天候が少しでも悪いと入山できない。登る気で行く用意をしたってお天気が言う事を聞いてくれるかどうか当日までわからないのだ。事実、次の日は台風21号の上陸で三徳山だけではなく日本中が大荒れで私たちは名古屋に帰る事さえできなかったのだから。

水丸さんが登らせてくれたんだと思う。「自分のかわりに登れ」と。

水丸さん、ありがとうございました。美しい「投げ入れ堂」間近に見てきましたよ。






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